嘲るように、しかし真摯な問いを魔王は投げかける。

あたしはどっちも興味ないね。あたしの願いはただ一つ見たことのないものを、行った事のない場所を、この目に収めたいだけさ

魔王は玉座から立ち上がる。そして大きく腕を広げ、吼えた。

ならば見るがいい、我が姿を! そしてその目に焼き付けながら、我が腕の中で息絶えぶげっ!!

しかしその台詞は最後まで続かなかった。ウィキアが全力で叩き込んだ氷の槍がその顔面に突き刺さったからだ。

浄炎!

ちょ、まっ!

Shalの放った白銀の炎が魔王を焼き、

氷の飛礫

おい、待てって!

ウィキアの魔術が魔王の足元を凍らせ、その動きを封じる。

爆裂

オウッ!! てっめえぇぇ!

そしてOlの魔術が炸裂した。

そこに、ナジャが剣を大上段に構えて切り込み、タイミングを合わせてFaroが矢を放つ。どちらかを避けようとすればどちらかを喰らわざるをえない。その矢尻に塗った特製の毒は、魔王と言えども筋肉を弛緩させ、動きを封じられるはずだ。

ちょっと待てって言ってんだろがーーーーーーッ!!

魔王が吼え、ごうっと炎が舞い上がった。一瞬ひるんだ隙にナジャの身体は逞しい赤銅色の腕につかまれ、矢も別の腕によって受け止められる。舞い上がる炎に照らされ露になったのは、四本の腕を持つ巨大な悪魔の姿。

あれほどの攻撃を叩き込んだのにその姿には傷一つなく、足元の氷も炎によって瞬時に気化していた。

全部抵抗(レジスト)しおったか

Olは口を曲げてチッと舌打ちした。高位の悪魔の身体は濃密な魔力の固まりだ。魔術はその魔力に干渉され、影響を与えずらい。とは言え、まさか全て防がれるのは思った以上の結果だった。

おい旦那、ここまでするたぁ聞いてないんだが?

そりゃあ、言ってないからな。事前に打ち合わせたら勝負にならんだろう

こっちには攻撃するなって厳命しといて勝負も何もねぇだろうが!?

魔王代理ことローガンはナジャの身体をぺいっと投げ捨てて怒鳴った。

大体人の台詞も途中で切りやがって!そこの魔女っ娘!てめえ様式美ってものがわからねぇのか!

あなたが言うとただの変態の戯言にしか聞こえない

うるせぇ! あー、見た目はアリだけど中身がなあギリギリセーフかいや、やっぱアウトううーん、セウトって感じだな

ローガンにじろじろと見られ、余りの展開についていけてなかったFaroはようやく我に返った。

ど、どういう事なの!? 何であんたたち魔王とそんな仲よさげに

名乗るのが遅れたな

いつの間にかOlは部屋の奥の玉座に座り、足を組んでいた。その手には血の様に赤い液体の入ったワイングラスがある。

我が名はOl。魔王などと呼ばれている、この迷宮の主だ。Faro、ここまでの案内ご苦労だった

Olって意外と形から入るタイプだよね。

っていうかなんでわざわざ座ったんだ?

あのワイングラスずっと準備してたのかしら。

探索が終わったからそろそろ抱いてもらえるのかなあ。

仰々しく言うOlに、彼の愛人達は各自心の中で突っ込んだ。

第13話魔王の迷宮を攻略しましょう-5

でもそんな。魔王は四本腕の赤銅の悪魔だって

それはOlが魔王に就いた後、ローガンを見た兵士たちから流れた噂だ。都合がよかったので、Olはそれをあえて拡大していた。

それに、アラン遊撃隊が魔王に味方するなんて

悪いな。我々は元々Ol様の忠実な部下だ

そう思ってるのはあなただけだけどね、とウィキアは思うが口には出さず、Olに寄り添うように玉座の周りに集まる。

まあ気付かなかったのも無理はないけどね。ずーっと私がほんのり魅了してたから

Faroの両肩に手を置き、リルが邪悪に微笑む。

このまま帰して、くれるわけないよね

一応聞いてみるFaroに、Olは頷いた。

そうだな。お前の仕事は実に役に立った。お陰でダンジョンを冒険者視点で改めて見直し、足らぬ点、十分な点が明らかとなった。これを俺は大いに評価している。また、お前の様な腕がよい盗賊は他の部下にはいないからな。我が配下に加わるならそれなりの待遇を持って迎えてやろう

もし断ったら?

そうだな亡霊、スライムの素材、魔獣の餌。好きな未来を選ばせてやる

はあ、とFaroはため息をついた。完全に囲まれ、扉は閉ざされている。Faro一人では逃げようがない。仮にこの部屋から逃げ出せたとしても外は魔獣の牧場で、それを抜けてもどっち道キューブの部屋は彼女に抜ける事は不可能だ。

わかった、降参。テオじゃない、Olの配下に加わるよ。でも一個だけお願いがあるんだけど

Olは内心首をかしげた。何かを企んでいるにしては、Faroは諦めきった表情をしている。しかし、その目は光を失っていない。むしろ何かの期待に満ちているように見えた。

何だ? 言ってみろ

無茶な要求だったら突っぱねれば良いだけだ。そう思い促したFaroの答えは、予想外の物だった。

うわあ、すごい!

目の前に広がる光景に、Faroは歓声を上げた。

魔王の間の玉座をずらし、隠された扉の向こうの階段を下りるとそこは第四階層。

Olに協力する裏方たちの住む階層だ。

それは上階層とは全く趣を異にしていた。そもそも、仮に魔王の間まで辿り付き、ローガンを倒す者がいたとしても、そこで出てきた財宝と外への転移魔法陣で帰るよう誘導される。迷宮の主たる魔王を手にし、財宝を手に入れた冒険者は迷わず意気揚々と帰ることだろう。

不用意にも外への転移魔法陣を踏めば上空1マイル(約1600m)に転移され、優雅な空の旅の後にはよく熟れたトマトを地面に落としたかのような姿になる運命だ。空高く打ち上げられ、落下しながら正確に魔術を紡ぐことのできる魔術師は少ない。いたとしても、財宝と仲間達を同時に浮かせるのは至難の業で、恐らく財宝は諦めざるを得ない。

真下には財宝を好む飛竜とグリフォンの巣が待ち構えており、落とした財宝を回収すると共に彼らに餌をやる、という手筈だ。

いずれにせよ、第四階層は基本的に敵の侵入を考慮してはおらず、他の階層とは構造そのものが大きく違う。

道は大きく真っ直ぐに整備され、迷ったりすることはまずない。罠などあるはずもなく、それどころかそこかしこに魔力の灯りが溢れ、昼の様に明るい。それどころか、時間によって光量を調節し、擬似的な昼夜さえ存在していた。

死臭はおろか瘴気さえ結界で遮断されており、地上の町と変わらぬ清浄さだ。辺りには住人達の部屋が立ち並び、Ol配下の亜人達が行きかう。

よぉ、魔術師さん、今日も女をたくさんはべらしてんな!

ア、Ol サマ ダー!

王ヨ。アタラシイ ワナ デキタ。今度、見ロ

道を歩いていると、様々な種族がOlに話しかけてくる。ドヴェルグ、フェアリー、サイクロプス。ある程度以上の知能を持ち、迷宮に役立つ能力を持っている者たちはここに住む事を許されていた。

往来を建材を担いだコボルト達が忙しそうに行きかい、小人のグノーメと金槌を担いだ巨人が店先で丁々発止の取引を行い、角では小さなピクシーと精霊の乙女ニンフが談笑している。それはまさに、亜人たちの町そのものだった。

すごいね、地上にも地下にも街があるんだ、この迷宮は

クドゥクのお前なら、ここにもすぐに受け入れられるだろう

きょろきょろと街中を見て回るFaroに歩調を合わせながら、Olはそう言った。

あたしもこの街に住むの?

いや、お前は向こうだな

Ol達は大通りを進み、突き当たった先の扉を開けた。第四階層はドーナツ状の形をしていて、中心から放射線状に大通りが、同心円状に横道が走ると言う形をしている。そのドーナツの中心が、第五階層への階段のあるこの部屋だ。

第五階層への道が簡単に見つかるのは、万が一侵入者があった場合に、第四階層の住人達を守る為でもある。彼らも皆戦うことの出来る戦士ではあるが、それ以上にその鍛冶や魔術の腕を見込んで住まわせているものだ。

ここまで侵入できるほどの相手と戦わせて命を散らすのは惜しい。

おかえり、Olー

第五階層への部屋には、ユニスが待っていた。ここに来る侵入者があれば、ユニスとエレン達が総出で相手をすることになっている。それを抜かれれば、Olの迷宮はそれまでと言うことだ。

留守中、ご苦労だったな

Olはユニスを労い、護符をFaroに渡す。

この下、第五階層に移動するにはその護符がいる。なくすなよ

こくりと頷いて服の中に護符をしまいこむFaroを確認し、Olは第五階層への隠し扉を開く。長い階段を下り、護符で結界をすり抜けると、そこが元は居住区と呼ばれていたOlとその愛人の住む地域。第五階層だ。

今日はご苦労だったな。もう部屋に戻っていいぞ

そう声をかけると、リルたちはじっとOlを見つめた。Olは嘆息して付け足す。

褒美は今夜くれてやる。しっかり身体を休め、清めておけ

すると娘達は一斉に表情に喜色を浮かべ、寝室に湯殿に食堂に、と各々思い思いの場所へと向かった。

では、案内を続けるとしよう

OlはFaroに向き直ると、彼女と並び道を歩いた。

入り口近くには駆けつけやすいよう、ユニス達戦力組みの部屋が並んでいる。そこから南に下ると中央広場。広場の中央に備えられた噴水からは、地下水脈からいつでも新鮮な水が湧き出ており、ちょっとした飲み水や顔を洗ったりするのにはここが使われる。

中央広場からは東西南北に道が広がっており、東方面へと向かうと家畜小屋とアールヴ達の部屋、そして湯殿がある。拡張に拡張を重ねた家畜小屋は、結局普通の家畜だけを飼育するようになり、魔獣の類は全て第三階層へと送られた。

小屋では牛、馬、羊、鶏、山羊などが飼育されており、いつでも新鮮なミルクや卵を手に入れる事が出来る。ミオは配下のインプ達を後ろに連れて、午前中で家畜の世話をし、午後には魔獣たちと戯れる、といった風だ。最近では暇を持て余したアールヴ達が手伝うこともある。

中央広場から西に向かうと、調理場と食堂がある。スピナ以下、生贄の娘達の部屋もこっちだ。彼女達は毎日食事を作り、迷宮を清掃し、洗い物を片付け、時にOlに奉仕する。中々の重労働だが、僅かに給金も配布され、外には出られないが欲しい物は給金の範囲で買ってもらうこともできる。それほど不満は抱いていなかった。

南はOlとリルの部屋、そして召喚の間だ。召喚の間には幾重にも防御魔法陣が張り巡らされ、万が一英雄が無理やり突破してきたときでも時間稼ぎくらいは出来るようになっている。

ダンジョンコアは、中央広場の真下、噴水を通じて降りた先の部屋に安置されている。迷宮と繋がってはいるが水の流れによって簡単には入ることは出来ず、更に地下水脈の流れによってスムーズに魔力を運べるように計算された物だ。勿論、その位置を知るのはOl以外にはいない。

すっごいね

一通りダンジョンを見て回り、感嘆しきった様子でFaroはそう言った。鍾乳洞や溶岩洞を利用して、ドラゴンや魔術師がダンジョンを作ることはそれほど珍しいことではない。

しかし、一から掘り起こし、これほどの規模で、しかも中に街が丸ごと一つ入っている物は歴戦の冒険者であるFaroでも見た事がなかった。

うん。満足した。これだけの大迷宮を見れたのなら、悔いはないよ。一思いにやっちゃって

ああ。ではついてこい

Olは言い、北の通路へと歩き始める。Faroはその後ろを、死刑台に行くかのような面持ちでついていった。

第13話魔王の迷宮を攻略しましょう-6

服を脱いで、ベッドに横になれ

軽く濡れた布で身体を清めた後、Olが命じるとFaroは神妙な表情で服を脱ぎ、ベッドに横たわって目を閉じた。

子供の様に身長の低いFaroだが、服を脱いで眺めるとその体付きは成熟した女性の物だった。どちらかと言うと人間の女を小型化させた、と言う方が近い。身体は丸みを帯び、腰はきゅっと締まって胸にはそれなりに膨らみもある。

Olは存分にそれを眺めた後、自身もローブを脱いで硬く閉じた彼女の股間へと指を這わせた。その途端、Faroは目を見開いて上半身を起こし、Olを見つめた。

ちょっ、待って待って待って! 何でそんなところ触るの!?

何でといわれても濡らさねば痛いのはお前だろう

濡らっ

予想していなかった答えにFaroは言葉を失い、Olが何をしようとしているかをようやく理解した。

の、呪いをかけてあたしを言う事聞く人形みたいにするんじゃないの!?

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