にらみを利かせるOlに、大臣はだらだらと汗を流した。調査中などと言うのもでたらめだ。この国の軍はキャスが殆ど動かしていた。大臣達は上から何とかしろと言うばかりの能無し揃いだという事はとっくに理解している。

参集だと? 余を呼び寄せておいてよくもぬけぬけとそのような事を言えたものだな?

地の底から響くようなその声に、大臣達はびくりと身を震わせた。

良いか。余は貴様らの生き死にに興味などない。私腹を肥やすも、飢えて死ぬも自由だ。だが、我が道を遮るとなれば話は別だ。民も兵も皆、我が為にある。敵に容赦などせぬ。わかったらその調査とやらを疾く済ませよ

ははっ!

大臣達が弾かれたように席を立ち、礼をして部屋を出て行く。

腐敗したこの国はやがて衰退していくだろう。だがそれでいい。王とはなったが、Olはフィグリアに所属した訳ではないし、盛り立てる気もない。生かさず殺さず、Olの脅威にならぬ程度まで緩やかに滅び行くまで、ダンジョンの糧となればそれでいい。

あっはははははは、余だって!

笑いすぎだ

後には渋面のOlと、腹を抱えてげらげらと笑うリルが残った。

前にも言っただろう。こういうのは多少わかりやすい方が良いんだ

でも、一人称余ってふふ

いいからさっさと報告しろ

中々笑いが収まらず、口を手で隠しながらニヤニヤするリルにOlは促した。

はいはい。こんな感じだったよ

リルは纏めた報告書を手渡す。そこには敵の布陣や数、戦力となる魔物達の量などが詳細に書かれていた。

少ないな

Olはその数字を見て怪訝な表情を浮かべる。敵はその数5000。こちらが用意できるであろう兵数よりは多いが、圧倒的という程の量ではない。グランディエラなら、この10倍は用意できるはずだ。

舐められてるのかな?

そうかも知れんな

適当に答えたリルの言葉に、Olは頷く。

え、うそ、ホントに?

自分で言っておきながらリルは尋ねた。

正直、それくらいしか理由が思いつかん

えーと、ほら、数を少なく見せておいて油断させて、伏兵を出すとかさ

それはOlも考えなかったわけではないが、可能性の低いことだった。

奇策奇襲は弱者のものだ。成功すれば格上を倒せるが、失敗すれば大損害だ。強者であるグランディエラが使う意味は薄い。数に任せて力押ししたほうがよほど損害が少ないのだからな

んー、じゃあええと、行軍すれば兵士もお腹が減るから、お金がかかるよね?その金額を節約するためとか

必死に眉を寄せ、リルは知恵を絞ってそう言った。

確かに行軍には多大な金がかかる。が、犠牲者の数は人数に反比例する。一人の兵士を育て上げるのに、どれほどの金と時間がかかると思う?行軍など比較にならんはずだが

もう! 淫魔にそんなの、わかるわけないでしょ!

ううー、と唸り、リルはついに癇癪を起こした。Olとしても別に彼女に期待していたわけではないのだが、この淫魔は妙なところで生真面目だ。

まあ良い。舐めてかかってくれるならそれに越した事はない。権謀術策を巡らそうと言うならそれごと叩き潰すまでだ

Olはローブを翻し、呪文を唱える。一瞬の後、二人の姿はダンジョンへと転移し、掻き消えた。

第14話英雄を無残に殺しましょう-3

兵と言うのは基本的に五種類に分けられる。

まず、もっとも数が多いのは歩兵。盾を構え、槍や剣などで武装する。敵の攻撃を押し留め、突破を防ぐ防御の要だ。装備が薄く機動力に優れる軽歩兵と、重装備で鉄壁の防御力を持つ重歩兵に分かれる。フィグリア側には軽歩兵が多く、グランディエラには重歩兵が多い。

次に多いのは弓兵。歩兵が防御の要なら、こちらは攻撃の要。長弓や弩(クロスボウ)などで、遠距離から相手を射殺す事が出来る。長弓は連射性能に優れるが使い手の育成が難しく、弩兵は使うのは楽だが、連射性能に劣り、弩も壊れやすく作りにくい為、数を揃えにくい。

次に多いのは騎兵。戦場の花形であり、戦争の勝敗は騎兵の操り方にかかっているといわれている。凄まじい機動力と突破力を誇り、歩兵をあっという間に蹴散らし、弓兵や魔術兵を皆殺しにする。反面、馬はとても貴重であり、それを操れる騎士となると更に貴重だ。

次は魔術兵。実は、戦争において魔術兵と言うのはそれほど重要視されていない。魔術による攻撃は弓に劣るからだ。射程は短く、連射も効かない。騎兵に接敵されれば為す術もなく殺される。

それでも魔術兵と言う兵種がなくならないのは、攻城級魔術を防げるのが魔術だけであるせいだ。つまり、相手方の魔術兵に対抗する為だけに、魔術兵はいる。

最後にその他直接戦闘に参加しない兵種がある。兵糧や武具などを運ぶ輜重兵、負傷者を回復する衛生兵、大型の兵器を組み立てる工兵などである。

歩兵で弓兵、魔術兵を守りつつ騎兵で敵を牽制、撹乱。相手方が浮ついたところを歩兵で押し込め、弓兵で殲滅と言うのが大体の戦争の流れだ。

宣戦布告から5日後。

ブランシュ平原で、Olとグランディエラの軍は対峙していた。

防衛側のOl軍は歩兵が横一列に並び、左右の端がやや相手側に突出した、いわゆる鶴翼の陣。後ろから弓兵や魔術兵が援護し、突撃してきた敵兵を包囲殲滅する防御に優れた陣形だ。

対してグランディエラは数百人単位で三角形に並んだ魚鱗の陣。鶴翼とは逆に戦力を一点に集中させ、一気に突破する狙いだ。

騎兵豊富で錬度に優れるグランディエラ側は、鶴翼の中央を一気に突破して大将を討ち、短期決戦を狙うつもりなのだろう。大将首が取られるか、およそ戦力の三割ほどが殺されれば軍と言うものはその機能を失い、瓦解する。

やはり、少ないな

魔術で敵軍の様子を伺いながら、Olは呟いた。敵の騎兵は約400。200ずつ、二つの魚鱗が出来ている。100しかいないこちらの騎兵に比べれば随分多いが、それでも想定していたよりずっと少ない。1000はいてもいいはずだ。

だが、こちらを軽んじている訳でもなさそうだな

こちらは肉眼で敵陣を睨みつつ、エレンは言った。

我らの射程から絶妙に外れている。魔術防壁も随分と厚い。あれでは我らの矢は通らんな

フィグリアの城での戦闘は解析されているという事か

恐らくは

こくりとエレンは頷く。飛竜から撃つエレン達の矢の雨はOlの切り札の一つだが、知ってさえいれば対策不能なほどの武器ではない。少なくとも、魔術兵隊を半分に減らさなければ効かないだろう。

転移による奇襲も無理だな。敵陣全体に転移妨害の魔法陣が組まれている。こちらに攻め込んでくれば背後は取れるが、騎兵はそのまま突破するだろうな

オーガやオークでは、馬の脚にはかなわない。背後をとっても攻撃するより先に逃げられる。

じゃあ、相手の騎兵を歩兵で止めないといけないんだね。あっちの騎兵は400、こっちの歩兵は1600。4倍か抑えきれるかな

無理だろうな。錬度が違いすぎる

いつになく緊張した面持ちでいうユニスに、Olはあっさりと答えた。

えっ

案ずるな。策はある

驚き目を見開くユニスに、Olはそう答えた。

そして、戦争が始まった。

グランディエラ軍の騎兵隊が、矢の様に平原を駆ける。全身を鎧で固めた騎士を背に乗せ、自身も鎧に身を固めながらその動きは裸馬と殆ど変わらない。

それはさながら、巨大な鉄の砲弾のようだった。降り注ぐ矢をものともせず、戦場を真っ直ぐに突っ切る。陣を迂回し、側撃を行う素振りさえ見せない。速度と重さに任せ、真っ直ぐ陣を突破する気だ。

それを迎え撃つフィグリア兵達は盾を構え、槍を掲げながら恐怖に歯の根を鳴らした。高速で走る鋼鉄の塊が、果たしてこんな細い槍で止まるのか? こんな薄い盾で防げるのか? 彼らは皆一様に、騎馬によって蹴散らされ踏みつけられ、粉々に砕かれる自分の姿を幻視した。

恐れるな!

その時、背後から魔王の朗々とした声が響く。

汝らが背を守るものを誰と思うておる。千の魔術を操り、万の魔物を従える魔王ぞ。鎧に身を包み、槍を持とうと所詮は人の子。地獄の悪魔とどちらが恐ろしいか

その声は不思議なことに、それほど声量があるわけでもないのに陣の端から端までしっかりと響き渡った。

さあ我が尖兵どもよ、胸を張れ、腹に力を入れろ!そしてあの愚か者どもを八つ裂きにしてやれ!

おおおぉぉおおおぉぉおおぉおおおぉぉぉ!!

兵達は一斉にときの声をあげる。

恐れで縮こまった兵達の心は真っ直ぐに伸び、殺意と狂気に満たされた。目がギラギラと輝き、槍を構えてグランディエラの騎士達を睨みつける。

おおおー!

何でお前までかかってるんだ

ぺちん、とOlはユニスの後頭部をはたく。

あ、あれ?

ユニスは辺りをきょろきょろと見回し、目をパチパチと瞬かせた。

兵士どもにかけたのは、狂戦士の術だ。恐怖を無くし戦意を高揚させるが、その分防御は疎かになる

とは言え、恐怖に竦むよりはよほどマシだ。そして、これからの展開への布石でもある。

よし、いまだ。やれ、スピナ!

Olは魔術で、ダンジョン内に待機しているスピナに合図を送る。轟音が響き、戦場の騎兵の半分が砂埃に包まれた。

今だ! ものども、一気に敵を包囲せよ!

Olの号令が轟き、歩兵達が一斉に騎兵隊に襲い掛かる。しかし敵も然る者、砂埃に一瞬怯んだもののすぐに体勢を立て直し、馬を宥めてすぐさま歩兵に襲い掛かる。

しかし、そうできたのは騎兵達の半分だけだ。

一体何が起こったの?

実は、この辺りまではダンジョンの第一階層が伸びている。そこで、地下からコボルトどもを操り、巨大な落とし穴を掘ってみた

魚鱗の後ろ半分は、落とし穴からダンジョンの中に落とされたと言う訳だ。重い鎧を着けていた騎士の殆どは即死か重症、仮に動けたとしてもすぐさまダンジョンの魔物達の餌だ。騎兵など、狭く足場の悪い迷宮内では何の役にも立たない。

数を半減させた騎士達は、それでも歩兵を相手に突破を試みる。しかし、その背後から襲い掛かるものがあった。

そして、ダンジョンと繋がっているのだから、当然そこには伏兵を用意してある。さすがに馬ほど早くは駆けぬが、歩兵が数秒も時間を稼げば十分

死を恐れぬ歩兵達の突撃に足止めされた騎士の背後から、漆黒の猟犬が飛び掛る。雄牛ほどの大きさのある黒犬は、鉄の鎧を炎で焼き焦がし馬の喉笛に食いついて防具ごと引きちぎった。普段相対する事のない魔獣達の咆哮に敵の足は浮つくが、魔術で狂戦士と化しているこちらの歩兵は気に留めることさえなく騎兵に打ちかかる。

食い殺せる

前には歩兵。後ろには魔獣。完全に包囲され、騎兵達の命脈は断たれた。

第14話英雄を無残に殺しましょう-4

もはや誰の目にも、グランディエラ軍の騎兵達の命は風前の灯であった。

フィグリア軍の歩兵を前に、退路も落とし穴によって断たれている。もはや彼らが生き残る道は強引に歩兵を突破するしかないが、中央の歩兵達は特に厚く層を作っており弱兵と言えどもそう簡単には突破できない。

騎兵の救助か、グランディエラ軍の歩兵が前進してきてはいるが、とても間に合う距離ではない。しかし、Olはそれに妙な違和感を覚えた。

歩兵が到着したとしても、乱戦の中騎兵達を救出する事は不可能だ。敵軍の指揮官は恐らくウォルフ王ではないだろうが、それでも精強で知られるグランディエラ軍の指揮官がそんな手を打つとは思えない。

また、こちらの損害がいやに少ないのも気にかかる。いかに不意を討ち挟撃に成功したとはいえ、こちらに突破してくる騎兵の一人や二人は計算のうち。それを討つためのユニスだ。

だと言うのに、騎兵は戦線を右往左往するだけでろくに槍を振るう様子すらない。

スピナ! 今すぐ、騎兵の死体を調べろ!

第一層に待機しているはずのスピナに、Olは魔術で言葉を送る。ややあって、彼女にしては珍しく慌てた声が返ってきた。

お師匠様! 人形です! これは、騎兵じゃない銀に塗られたただの人形です!

全軍、退却!

Olが叫ぶと同時に、歩兵達がばたばたと倒れだした。矢ではない。魔術でもない。他の何か飛び道具で、歩兵達が次々に倒されていく。

一体なんだ!?

主殿、投石器(スリング)だ。投石器で石を投げている

エレンが険しい表情でそう言った。投石器(スリング)とは皮で出来た原始的な武器で、石を包むポケットに紐をつけて振り回し、遠心力で飛ばすものだ。

投石器だと? そんなもの、矢止めの魔術で何故防げぬ。この距離であれば

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