老婆の様な姿をした妖魔。一見人間に似ており、言葉も通じるものの交渉によって切り抜けられる事は殆どない。人間の肉が特に好物であり、言葉巧みに人間を騙しのろいをかけて動けなくしたところで刻んで食べてしまうのを好む。反面、真正面からの戦闘能力はさほど高くなく、その老婆の様な姿にしては俊敏な動作を見せるものの、それなりの腕を持つ冒険者であれば恐れる相手ではない。
ケンタウロス
上半身は人、下半身は馬という種族。知能は人並みにあり話も通じるが、非常に粗暴で話はすぐにこじれ、交渉は困難。特にパーティ内に女性が含まれている時は迷わず戦闘を選ぶか、逃げた方が良い。彼らは粗暴さよりも知られる好色な男達の集まりであり、気を許せばかなりの高確率で強姦される事になる。また、一人ひとりが弓の名手であり、棍棒の使い手でもあるため敵としてもかなりの強敵といえる。
ハルピュイア
愛らしい少女の顔、身体と、鳥の翼、足を持つ魔獣。人の顔をしてはいるものの知能は低く、会話はあまり成り立たない。非常に貪欲で、食料の入った荷物を放置しているとすぐさま盗みに来る。戦闘能力はそれほど高くないのだが、まずあまり積極的に襲い掛かってはこず、攻撃の範囲外から投石などで攻撃して来るため撃破は困難。餌でも投げてそれに群がっているうちにさっさと逃げる方が良い。
ケイブジャイアント
洞窟にすむ巨人。身の丈3.5mほどの体格に、粗末なぼろ布と棍棒で武装している。見た目どおり知能はさほど高くないが、その巨体から繰り出される一撃とタフネスは圧巻。性格も粗暴極まりなく、よほど満腹な時以外は襲い掛かってくるので精神系統の魔術で対処するか、細い路地に逃げ込むと良い。
マーメイド
美しい女性の上半身と、魚の下半身を持つ精霊の一種。迷宮の中ではもっとも話の通じる部類であり、基本的にこちらから攻撃しない限りは襲われることは無い。が、その身体は全身高濃度の魔力の塊であり、非常に高価である為、襲い掛かる冒険者は後を絶たず、自分や仲間が襲われた経験を持つ個体が先制攻撃を仕掛けてくることもあるので注意。
ミオ(魔物使いLV20)
大量の魔獣の面倒を見るようになった結果、あらゆる魔獣を己の手足の様に操ることが可能になったミオ。稀に第三階層でエンカウントするレアキャラ的存在。本人に戦闘能力はないものの、個々の魔獣の戦力を+1程度引き上げる。常に複数の魔獣を引き連れ自在に操るため集団での戦力は7~8相当。
冒険者の大量流入によって瘴気が一気に強化され、死んだ人間の亡霊が何もしなくても自然と悪霊へと変化し、死体が勝手に動き出すほどの濃さへと変化した。また、迷宮内での生態系もすっかり出来上がり、死体→ネズミや虫→ゴブリン→その他妖魔、巨人など→社会性を持つ亜人種のようにピラミッドが出来ている。この時点で防衛設備はほぼ完成し、Olの迷宮の防衛は磐石な物となった。突破には並みの英雄クラスでも複数人が必要な程。悪名はかなり広まり、ちょっと噂に敏感な人間ならその名を知っている程度。歌にする吟遊詩人もぽつぽつと現れ始めた。
第14話英雄を無残に殺しましょう-1
陛下。お耳に入れておきたい事がございます
痩せこけた男が跪き、そう申し立てた。齢は60を越えるだろうか。真っ白な髪に神経質そうな面持ち、片眼鏡をかけた彼は王の信頼厚い宰相、トスカン。
申してみよ
対するのは、豪奢な赤いガウンに身を包んだ白髪交じりの赤髪の男。身の丈6フィート半(約2メートル)にも及ぶ身長と筋骨隆々の体躯。豊かな髭は炎の様に伸び、あたかも獅子のたてがみの如く彼の胸元を彩っている。実年齢は50台半ばだが、40台前半にさえ見える精力的な迫力を持つ大男だ。
彼こそが、ウォルフディール・セヴラン・ル・エラ・グランディエラ一世。大国グランディエラの国王その人である。
先だって、フィグリア王国を手中に収めた魔王Olの話ですが
そのような小国、気にせずともよいと申したはずだ
ことり、とウォルフはチェスの駒を動かした。対局相手はいない。チェス・コンポジションいわゆる、詰めチェスだ。
いえそれが、その配下にユニス様らしき姿を見た、と報告がありまして
ほう?
ウォルフは手を止めることなく、チェスの駒を動かしていく。
あのじゃじゃ馬娘、勝手に飛び出していったかと思えばそんなところにおったか
いかがいたしましょう
ウォルフは手を止め、少し考えた。そして、白のポーンを黒のキングの斜め前に置く。
連れ戻せ
黒のキングに逃げ道はない。
抵抗するなら、殺しても構わん
仕方なくポーンを取るキングを、ウォルフは白のナイトで押しつぶし、粉々に砕いた。
このラファニス大陸には大小あわせて12の国があるといわれている
白墨で簡単な地図を描きながら、Olは説明する。その前には、リル、ユニス、スピナ、エレンといったいつもの面子が卓につき、説明を聞いていた。
違うのは最初から話を聞く気がないマリーが既に机に突っ伏しているのと、ミオが末席に加わって所在なさげに小さくなっている事だ。
フィグリア王国まあ、最近は魔の国とか魔王国とか呼ばれる方が多いが、この国はこの辺りに位置している
Olは大陸の中央、やや西よりあたりに小さく楕円を描いた。
南には大国グランディエラ。英雄王ウォルフ率いる騎兵団を擁する強大な国だ。軍事力で言うなら大陸随一だろうな。元々はそれほど大きい国ではなかったが、一代で周りの国を次々と飲み込み、あっという間に大きくなった
Olは大陸の下半分をなぞるように囲む。その大きさは、フィグリアの10倍近い。
北には宗教国家ラファニス。この大陸の盟主国と言っていい。1000年以上前から続く伝統ある国で、現在のトップは聖女メリア。永世中立を謳い自分達から戦を仕掛けることはないが、一旦仕掛けられれば容赦はない。そうして幾つもの国が返り討ちにあっている。グランディエラでさえ手を出せん
Olは大陸の上半分を囲む。すると、大陸の殆どが埋め尽くされた。
他にめぼしい国は、東の竜騎士団を持つラーヴァナとか、白アールヴ達の国アルフハイム辺りか。他の国はそれほど大きくないし、隣接もしていないから今は気にせんでいい
更に隙間にいくつか楕円を書き足し、Olは白墨を置いた。
まず、絶対に敵に回してはいけないのはラファニスだ。ここは、こちらから攻撃さえしなければ侵攻して来る事はないが、敵意有りと断ぜられれば一気に滅ぼされる。後には何も残らん
でも、軍事力はグランディエラの方が上なんでしょ?
ユニスの言葉に、Olは頷く。
軍事力はな。だが、ラファニスの聖女は自称ではない。文字通り神の御遣い、天使達のしもべだ。ラファニスを敵に回すという事は、天を敵に回すという事でもある
でも神は神代の戦争で死んだんでしょ?
ああ。だが、親玉が死んだだけで、あのクソ忌々しい天使どもは天にいる。俺達悪魔が絶滅してないのと同じだ
リルの問いに、ローガンが重々しく答えた。
そういえばローガンは、神魔戦争の経験者なんだっけ
ああ。つっても下っ端だったから、大したことはしてねぇぞ
ローガンほどの力を持った悪魔が下級と呼ばれる理由は、そこにある。数千年前、神代と呼ばれる時代。無数の悪魔を率いる伝説の魔道王が天に住む神と戦い、相打ちとなった神魔戦争。その戦争で、最低限戦力になるのがローガンのレベルだったのだ。
だが、天を敵に回すことがどれほどの事かはわかるだろう
まあ単純に、悪魔全部を敵に回すのとあんまかわんねーわな。向こうも上の連中は殆ど存在ごと消滅してるから神魔戦争の再来、って程にはならないだろうが、まあ今の戦力じゃ逆立ちしたって勝てる相手じゃねえ
あー、そりゃ無理だね
ユニスがあっさりと認める。彼女の戦力は規格外と言っていいレベルだが、それでもローガンレベルの敵が二体も出れば勝てるかどうかは怪しい。三体以上ならお手上げだ。
と言うわけで、目下の脅威はグランディエラだ。ここは幾つもの国を併合し、積極的に戦争を仕掛けている国でもある。こちらから打って出ずとも、向こうから仕掛けてくる可能性も高い
お父様戦争大好きだからね
ぽりぽりと後頭部をかき、ユニスは呟く。
あたしは、それが嫌で家を出たの。戦争の道具にされるなんて真っ平。悪くもない人を野心の為に殺して、ひどい扱いして、植民地にするなんて、あたしには耐えられない
きっぱりと、ユニスは言ってOlを見つめた。
でも、Olは違うでしょ? Olは、他国を手に入れてもちゃんとその国の人たちの面倒を見る。ひどい扱いをしたり、奴隷にしたりしない。王としての責任を果たしてる
ああ。勿論だ
当然の様に頷くが、別にOlは人道的な意味からそうしているわけではない。ただ、人間を信じていないだけだ。
反乱の芽を摘みつつ国を広げるには、Olの様にしっかりと面倒を見てやるか、ウォルフの様に徹底的に敵国を滅ぼして自国民を増やすしかない。
Olは人間を信じていないから、反乱のリスク自体を下げる方を選んだ。統一した民族を増やすより、バラバラの民族を多く擁する方が反乱は少なくなる。
だから、Olの下でお父様を止められるなら、あたしはお父様とでも戦うよ
たとえ肉親をその手にかけることになってもか?
Olがそう尋ねると、ユニスは少し困った表情をした。
そのくらいの覚悟はある、って言いたいところだけどごめん、無理かもしれない
そうか。まあ、無理にとは
違うの
Olの言葉を遮り、ユニスは首を横に振り、言った。
単純に、あたしじゃお父様は倒せない。お父様はあたしよりずっと強いから
第14話英雄を無残に殺しましょう-2
英雄王ウォルフディール。狼王、獅子王、赤髭王など様々な異名で知られるその偉大なる王を、この大陸で知らぬ者はいない。
姫をさらった巨人を剣一本で斬り殺し、ただの平民から王の座に駆け上がった若者は、その腕で瞬く間に国土を広げた。
並み居る悪鬼妖魔をなぎ倒し、敵国を平らげていく様は幾つもの叙事詩(サーガ)に纏められ、各国で吟遊詩人が謳い伝えている。その勇猛さは味方からはまさに英雄と称えられ、敵からは生ける死神と恐れられた。
しかし、Olはウォルフをそれほど恐れてはいなかった。彼の国は大きくなりすぎた。もし戦う事になったとしても、勝敗を決めるのは軍隊と戦略だ。個人の英雄の武力ではない。
また、長生きする英雄などと言うものは、古今東西に目を向けてもそれほどいない。その多くは、二十台半ばで命を落とし、30を数えるものは少ない。50を越えるウォルフは破格と言っていい長命だが、そう長くはないだろう。
本人もそれを自覚しているのか、最近では戦に出る事もめっきり減り、内政に腐心している。数年待てば勝手に死ぬだろう。ユニスを当てれば案外あっさりと勝つかもしれない。無論、そんな一か八かの賭けを打つ気はないが、子に殺される英雄と言うのは割りと良くある話だ。
問題はそれよりもむしろ、大陸最強と名高い騎兵団をどうするかだ。勿論、歩兵や魔術兵の錬度も、フィグリア王国の軍とは質も量も比較にならない。もっとも、Olはそもそも人間の兵を当てにはしていなかった。
それで勝てるのならばフィグリアはとっくに大国になっている。Olの強みは飽くまでダンジョンと、そこに蓄えた大量の魔力だ。地力で勝る敵を葬るなら、それを生かすしかない。
Olはじっくりと策を練り、ダンジョンの拡張を進めていく。
彼の元に宣戦布告が叩きつけられたのは、それから一週間の後の事だった。
状況を報告しろ
王宮の大会議室。
居並ぶ大臣達にOlは端的に命じた。
は。グランディエラから宣戦布告がありました。陛下が留守中に使者が参りましたので、私が代わりに応対しました。敵は南部のブランシュ平原での決戦を指定しております
軍務大臣がそう答える。
それで?
と、申されますと?
続きを促すOlに、大臣は怪訝な表情を返した。
敵の規模は。今どこに布陣しておるのか。こちらがすぐ動かせる兵はどれだけいるのか。その内訳は。勝てる勝算はどれほどあるのか。そう言ったことを聞いておる
そのた、ただいま調査中です。まずは陛下に御報告を、と思いまして、取るものも取りあえずこうして参集つかまつったわけでして