師と弟子、弟子と師。二人の関係性が曖昧になり、それを利用してスピナは強引にOlに呪術を仕掛けたのだ。
効率は悪く、効果の薄い呪術ではあるが、スピナの蓄えた魔力は膨大だ。しかもダンジョンコアと言う外部に魔力を持つOlとは違い、スピナはその体内に魔力を全て蓄えている。その膨大な量の魔力による力押しに、Olは完全に動きを封じられた。
お師匠様ああ、お師匠様お慕いしております
スピナの姿がぐにゃりと歪み、彼女の姿が二つに分かれる。スライムと人との中間の生き物となった彼女は、人の姿と粘液状の姿を自在に渡ることが出来る。そればかりか、こうして身体を複数に分けることさえ可能だった。
Olの形代とは違い、それぞれ全てが本物のスピナで、独立した思考と統一された意思を持つ。スピナはOlの衣服を剥ぎ取ると、彼の肉棒を愛おしそうに舐めあげる。それと同時に増えた方のスピナがOlの肩に甘えるように抱きつき、彼の唇を吸う。
彼女の背後で蠢くスライムの表面からは次々とスピナ達が一糸纏わぬ姿で現れ、Olを拘束しながら彼の身体を愛撫していく。見る見るうちに、Olは全裸のスピナに周囲を囲まれた。
Olの口はぬめぬめとしたスピナの舌で満たされ、声を出す事も出来ない。Olは形代を捨て元の身体に戻ろうとしたが、それも叶わなかった。身体を捨てるにも、ほんの僅かながら魔力が必要になる。しかし、魔力を動かそうという動きを察知するや否や、スピナはそれを吸い上げてしまう。
形代を破壊されれば、魂は自然と元の身体に戻る。しかし、スピナはそうはしないだろう。ただ永遠の時をOlと過ごすだけだ。
永遠に愛し合いましょうお師匠様
スピナはOlを己の上に押し倒し、一物の上に腰を下ろした。
あぁ
胎内にOlの物を納め、スピナは声を上げる。その感触はスライムのそれではなく、人間の頃の彼女と全く代わりがない。違うのは、彼女の姿が幾つにも増えていることだけだ。
御奉仕致しますね、お師匠様
スピナは自らの胎内にOlを納めつつ、少し腰を浮かす。そこに別のスピナが顔を横から入り込ませ、スピナの中に入りきらない竿の部分に舌を這わせ始めた。更に別のスピナがその精の詰まった袋をじっくりと舐め上げ、左右からは二人のスピナがOlの腕をそれぞれその胸に挟みこんで、指先を肉棒にするように丁寧に舌を這わせ、口淫奉仕を行った。
Olの口もピッタリとスピナの唇に塞がれ、その舌は同様に口内で奉仕するかのようにスピナの舌が絡められていた。身体は更に別のスピナの手によって支えられ、その胸をぐいぐいと押し当てられている。
その天国の様な地獄に、Olは溜まらず精を解き放つ。本来であれば射精も完全にコントロールできるはずだが、スピナに魔力の流れを乱されてそれも叶わない。
あぁぁお師匠様ぁ
うっとりとした声で、スピナ達は一斉に恍惚のため息をあげた。思考能力そのものはそれぞれ独立して持っているが、感覚を共有し、意思を統一する事はできる。自分同士で争ったりはけしてしない、スピナという存在のために全員のスピナが存在しているのだ。
ずっと、ずっと私はお師匠様のお傍にいます
スピナはOlの上から退き、股間に顔を近づけると舌で清め始めた。三人のスピナが顔を寄せ合いペニスに奉仕し、腕を、足を、胸元を、体中の至る所を、スピナは舌を這わせ清める。
私の事だけを愛して、などとは申しません。ですがどうか、ずっとお傍にお傍に、いさせてください
スピナは再びそそり立ったOlの物を己の膣内に納め、彼の胸の中に身を委ねた。そのまま、彼女の輪郭がぼやけ、Olの身体をゆっくりと包み込んでいく。全身が融け、文字通りスピナと一体になるかのような快楽にOlの意識に霞がかかり始めた。
やめなさい、スピナ
その耳を、もっとも聞きなれた声が叩く。薄れいく意識の中、Olの目に映ったのは彼の忠実な使い魔リルの姿だった。
第16話 愚かなる者を制裁しましょう-4
広場から慌ててOlを助けに来たのだろう。リルは体中傷にまみれ、翼は半分折れ、肩で荒く息をしていた。
その姿を、スピナ達は冷たい表情で見つめた。
邪魔をしないで下さい、使い魔風情が。お師匠様は、これからずっと私と共にあります。あなたは必要ありません。消えてください
使い魔風情。冷たい目でそう呼ぶスピナに、リルは違和感を覚えた。彼女は他人との間に壁を作り、Ol以外の者と馴れ合おうとはしない。リルも会話はしても、名を呼んで貰った事は一度もない。
しかしそれでも、リルは彼女とのある種の信頼感を、感じていた。少なくとも使い魔風情などと蔑むような事を言われる間柄だとは思っていなかった。
そうはいくもんですか! Olは私の! ご主人様なんだからっ!
リルが腕を伸ばし、Olの腕をつかもうとする。しかし、その腕はスピナの身体に触れた瞬間溶けるように消失した。
っ!
リルは慌てて、肘まで消えた腕を引き戻す。
私のこの身体は、あらゆる魔力を溶かし、吸収します。悪魔のあなたではどうにもなりません。もう一度言います。消えてください
それが、スピナの精一杯の譲歩だった。
彼女とて、リルやユニスに友情を感じていない訳ではない。いや、むしろOl以外に信じる数少ない相手であり、ある種の尊敬に近い感情すら抱いていた。
そんな彼女を何よりも恐れさせたのが、ユニスの死だ。
戦闘能力を全く持たないスピナは、口には出さなかったがユニスの強さに強い憧れと絶対的な信頼を置いていた。
そんな彼女でさえ、あっさりと死ぬ。ならば、Olも例外ではなく、命を落としてしまうのではないか。その想像は彼女にとって気も狂わんばかりの恐怖であった。
絶対に、嫌。私だって、譲れないの
リルは左手で、消失した右腕をさっと撫でる。腕の断面が黄褐色に光り輝き、リルの腕がじわじわと復元していく。
ごめんねOl、1割までって約束だったけどOlの魔力、使わせてもらう!
リルの周囲を鎖の様に琥珀色の魔力が渦巻き、ゆっくりと彼女の傷が治り、折れた羽が元に戻っていく。彼女は大きく翼を広げると、速度をつけてスピナに向かって突進した。
無駄だと、言うのがわからないのですかっ!
無数に居並ぶスピナのうち二人がリルを止め、その両手足をつかむ。リルは一瞬にして胴体だけになり、地面に転がった。
あなたの身体は全身魔力の塊。なら、何をしても私には勝てません。それが
だったら、何よ。無理ならあなたはOlを諦めるってワケ!?
リルの叫びに、スピナはびくりと身体を震わせる。
何故、そこまで
知らないし、知ったこっちゃない! いい事、あたしはね!
魔力で手足を復元し、リルは煮え立つ感情の中、どこか冷静な部分で思った。
ああ、これで二度目だ。全く師弟揃って腹立たしい。
怒ってんのよーっ!!
カチリ、と。何か、スイッチが入ったような感覚が、リルの頭の中に響いた。
リルは復元した右腕を再度スピナの中に突っ込み、Olへと手を伸ばす。当然、瞬時に腕はスピナの中に溶けるが、リルは無理やりそこに魔力を注入し溶かされながら腕を再生する。
そんな、無茶な!
瞬時にして魔力を吸い取るスピナに対し、リルは凄まじい速度でその腕を再生させる。ありえない速さだ。幾ら人間に比べて構造が単純な悪魔といえど、その身体の再構成にはそれなりに時間がかかる。少なくとも、瞬時に出来るような類のものではない。それを成し遂げる為には、高度で複雑な魔力の操作技術が必要だ。
例えば、Olの様に。
馬鹿な、サキュバスにそんな技術があるはずが!
リルの再生速度が、徐々に加速していく。スピナの中に腕を突っ込んでいるというのに、肘の辺りがしぶとく残っている。そして、その速度は徐々にスピナの吸収力を上回り始めた。溶解と再生のせめぎあいの中、リルはじりじりと腕を伸ばしていく。
もう、すこ、し!
最初に、翼が消えた。ついで、左足が消え、左腕、右足とリルの身体が崩壊していく。魔力が足りなくなって、再生の分を身体の別部分で補っているのだ。
リル! 手を離してください!
やっと、名前で呼んでくれたね
残った顔でニっと笑い、リルは右腕でOlを掴んだ。そのままぐいっと彼の身体を引き出すと、右腕も崩壊し、顔だけが残る。
地面に落ちるリルの首。スピナは思わず人の身体に戻ってそれを抱きとめた。
その手首に、リルは思いっきり牙を突き立てる。
っ!?
一瞬にしてリルはスピナから魔力を奪い取り、全身を復活させた。
やっぱり、ちゃんと残してたんだ
新しく作った身体の調子を確かめるかのようにぐるぐる回しながら、リルは嬉しそうに笑みを見せる。
お腹にもらった、Olの魔力
偶然似た魔力を持つリルと違って、スピナはOlに精とともに仕込まれた魔力を取っておいても意味がない。むしろ、何も対処しなければそのまま自分の魔力として取り込んでしまう。
しかし、スピナなら絶対にそれを残している。リルはそう信じ、躊躇いなく限界まで自分の魔力を使うことができた。
さ、気はすんだでしょ? 帰ろ
出来ません
スピナは両腕を上げ、自らの頬のあたりに構える。
だってご、ごんなごどじでおじじょうざまに、ぎらわえる
そして、まるで童女の様に泣き始めた。
その様子をリルは唖然として眺め、苦笑交じりに息を吐いた。とんでもない事をしでかしたと思えば、そんな理由で子供みたいに泣き喚く。全く、困った娘だ。
泣き止みなさい、あんたキャラ崩壊してるから。ほら私が何とかしてあげるから。ね?
子供をあやす様な口調で慰めながら、リルはスピナの頭を撫でる。
こくこくと頷き、しゃくりあげながらも何とか涙を止めるスピナの頭をぽんと軽く叩き、リルはOlに向かう。魔力を奪われ、彼は昏倒しているようだった。
そのリルの背を見ながら、スピナは妙な違和感を感じた。何とかするとはどういう意味だろうか? いつもの彼女なら、一緒に謝ってあげるくらいは言ってくれるだろう。しかし、自信満々に何とかすると言うのは妙な違和感があった。
リルはすうっと息を吸い込み、大声で怒鳴る。
アイン・ソフ・Ol! 起きなさい!
呪力の篭ったその言葉に、Olがびくりと身体を震わせ目を覚ます。
ラリル?
一体何が起こったのか把握できず目を瞬かせるOlに、リルはにっこり笑って手を上げた。
そして、スナップを効かせてその手を振り下ろし、Olの横面を思いっきりはたく。
パン、という小気味良い音に、スピナは思わず身を竦ませた。
第16話 愚かなる者を制裁しましょう-5
な?
強かに平手打ちされ、紅葉模様を頬に貼り付けてOlは目を瞬かせた。
自分に危害を加えられないはずのリルが自分を殴った事もそうだが、あの鉄面皮のスピナがひぐひぐとしゃくりあげ、目の前のリルがにっこり笑いながら今だかつてないほど激怒したのもわからない。
それに何より、今自分は真名で叩き起こされた。知っているかいないか、という話ではない。それが出来る人間は既にこの世にいないはずなのだ。
Olがしっかりしてないから、スピナが心配して暴走しちゃったじゃない!あなたは私達のご主人様なんだから、もっと余裕を持っていつもみたいに不敵に構えてなさい!
ある種、理不尽なその物言いにOlが言葉を失っていると、リルは噛んで含めるように彼に問うた。
取り戻すんでしょう? ユニスを
Olが力強く頷くと、リルは腰に両手を当て、よろしい!と頷いた。その仕草は、Olにとってひどく懐かしいものだった。
お前はラズ、なのか?
Olは、リルの顔をまじまじと見つめながら尋ねた。彼女の表情はいつもと違うようにも、違わないようにも見える。
Ol、力むと魔力を使いすぎる癖、ぜんっぜん治ってないね
リルは悪戯っぽく笑い、Olに手を貸して彼を立ち上がらせる。
悪魔の召喚ってさ。釣りに似てるんだよね。魔界から見ると、呼ばれてる種族と、使われてる魔力が見えるわけ。悪魔達はそれを見て、この魔術師は期待できそうだ、いやこいつは駄目だ、なーんていいながら、釣られたり、無視したりするんだけど
一年以上前の事を思い出し、リルはくすくすと笑う。
Olってば、サキュバス呼ぶのに高位悪魔並みの魔力を注ぎ込んだりするから、皆逆に警戒しちゃって全然食いつかなかったんだよね。でも、私には、あなたの琥珀色の魔力がなんだかすごく、懐かしく思えたんだ
リルはOlの両頬にそっと手をそえ、彼の目を見つめた。