主天使の言葉に力天使、能天使達の動きは精彩を取り戻し、つかず離れずを保ちながらデュラハンを取り囲んだ。怨念で動くデュラハンの動きは速いが単純だ。一番近い敵を目指して馬車を走らせ、遠くに狙うものがあれば魔術でこれを落とす。

その動きはパターン化していて、速度に惑わされずよく観察さえすれば十分に対応が可能なものだった。もっとも、主天使がそれに気付くまでに、実に4人の力天使とそれに数倍する能天使達が犠牲になったが。

これでも喰らえ!

主天使が理力で編まれた鎖を飛ばす。それはデュラハンの馬車を絡めとり、車輪に巻きついた。それによって動きの鈍る馬車に、他の天使たちも次々に鎖を飛ばす。何本もの鎖に拘束され、首なし馬とその馬車はついに動きを止めた。

今だ! 者ども、かかれ!

動きを止めた馬車に、天使達が殺到する。何人かはデュラハンによって殺されるだろうが、それでもこの強敵を討ち取れればよい。そう判断した主天使による決死の突撃だ。

しかし、その決死の覚悟は報われることはなかった。ただの一撃として槍も剣もデュラハンには届かず、見えない壁に止められた。攻撃をした天使たちの胸には氷で出来た矢が突き刺さり、虚空に消える。同時に、澄んだ金属音と共に馬車を絡め取った鎖が断ち切られた。

いつの間にか三人の冒険者がデュラハンの馬車に乗り込み、彼を守ったのだ。

貴様ら我らが天使と知って邪魔をするか!?

その中に僧侶と思しき姿を認め、主天使は叫んだ。

あたしの信じるものは、Ol様のおちんぽだけです

その言葉に、白アールヴの僧侶Shalは、にっこりと笑ってそう答えた。いつもの事とは言え、仲間のウィキアとナジャもその返答に若干呆れる。

それに

しかし、彼女の笑みはゆっくりと消え、鋭い視線を主天使へと向ける。

お互いこんな風になってしまってもアランさんは今でも、大切な仲間ですから

その言葉に、ウィキアは目を見開いた。

Shal、あなたは

Shalはナジャのように記憶を改竄された訳でも、ウィキアの様にすべてを掌握されたわけでもない。ただ、価値観をかえられた、それだけだ。飽くまでもっとも大事なものはOlと、彼の与えてくれる快楽。

しかし、だからといって仲間達がどうでも良くなったわけではない。たとえ、その姿が変わり果てようと。

デュラハンは、生まれて初めて戸惑いと言う感情を味わった。彼の周りに現れた、三つの光。それはやはり暖かくまぶしい、彼が嫌悪するものだった。しかし、不思議とその暖かさは不愉快なものではなく何か、不可解な気持ちを、彼に与えた。

ならば、共に滅びるがいい!

主天使は叫び、僅かに生き残った天使達に号令をかける。確かにデュラハンは強敵だ。その上、新たに出てきた三人の娘もそれなりに使える。

しかし、それでもまだ数も質もこちらの方が優れている事を主天使は確信していた。先ほどのように不意を討つような攻撃でなければ勝てるはずだ。

主天使の指揮の元、天使達は一糸乱れぬ動きでデュラハン達に襲い掛かった。槍を持つ力天使達が中距離から相手の動きを牽制し、弓を持つ能天使達が次々と矢を射掛ける。

馬車の行動パターンは既に読みきった。先ほどの攻防から察するに、敵の核となるのはあの僧侶だ。彼女を殺し、防御を打ち崩せば後は順に殺していくだけで良い。そして、一人で天使達全員の攻撃を防ぎきるほどの力も、防げなくなる前にこちらを全滅させるほどの力も、彼女たちにはない。

主天使のその読みは概ね正しかった。

たった一点。馬車の行動パターンを読みきった、という点を除いて。

デュラハンは手綱を取り、縦横に馬車を操った。槍の穂先ギリギリを旋回し、その馬車の身体で矢を受け防ぐ。馬車では防ぎきれない流れ弾を、Shalが的確に魔術で防いだ。

お返しよ

矢を撃ち終えた天使達に、ウィキアは氷の矢を飛ばす。それを何とか中和、回避した能天使達の半身が、ずるりと斜めにずれ、落ちて消えた。

飛ばされた氷の矢の背後に、女剣士ナジャが潜んでいたのだ。彼女は空中で天使に蹴りを入れて跳躍すると、不意を突かれ動揺する天使数人の首を刎ねて地面へと落下した。

落ちる彼女の体を、絶妙のタイミングで馬車が駆け抜け拾う。その隙を突こうとした数人の天使達が、氷の壁に阻まれ槍を取られる。そして、その壁の表面を伝い、デュラハンの放った電撃が天使達を焼き焦がした。

このような事ありえぬ

実力でははるかに勝るはずの天使達が、成す術もなくやられていく。それ自体がありえない、信じがたい光景ではあったが、それ以上に不可解なのが、不死の狂戦士が生者と共に戦い、絶妙な連携を取っている事だった。

かくなる上はこの身滅びようと、滅してくれる!

主天使は錫を取り出し、叫んだ。この錫こそ主天使の力の本髄。神の威光を知らしめ権力を示す王威の錫だ。魔力に溢れ、瘴気の充満するこの迷宮の奥でこんなものを使えば、天使自身がただではすまない。しかしそれでも、主天使は道を切り開く為あえて自ら捨石となることを選んだ。

喰らえ!

錫の先に、膨大な熱量が発生する。中位第一隊、階級第四位の天使の渾身の一撃だ。その力は下級悪魔ローガンの操る炎にさえ倍する。

それを見て、Shalは顔色を変えた。あの攻撃は防ぎきれないどころではない。主天使が命を賭して放たれる一撃は彼女達を纏めて消滅させて余りあるほどの熱量を備えていた。

その時、デュラハンは三人を馬車から振り落とすと、手綱を手繰り馬を走らせた。強烈な閃光の束が彼を貫き、闇で出来た馬車を木っ端微塵に粉々にする。首なし馬が一瞬にして蒸発し、デュラハンの構えた剣ごと彼を真っ二つにした。

しかし、その背後に庇った娘達には、傷一つ与えない。胴から離れた首でそれを見届け、デュラハンは兜の中で口元を歪めた。闇の炎は彼の身体を焼き焦がし、純粋な意思だけを残して燃やし尽くした。残ったのは、圧倒的な絶望と憎しみ。

そして、祈りも希望も、肉欲も嫉妬も何もかも燃やし尽くしたその奥に、ほんの僅かしかし、確かに淡く輝く思いが一欠け、存在していた。

今度は、守れて、よかった。

ごめんな

死者である彼の言葉は、生者には届かない。

しかしそれでも彼はそういい残し、その後に漆黒の兜を残して消えた。

その胸に、ほのかな満足感を抱いて。

無念

主天使は力を使い果たし、どさりと地に落ち、消える。ひとまず敵を殲滅し、ウィキアは安堵の息をついた。

とりあえずは凌いだわね。しばらく待てばデュラハンは自然に蘇る。それまでは無理に防衛せず適度に守れ、との事よ

答えるナジャの声は、妙に震えていた。ウィキアが視線を向けると、彼女は不思議そうな表情でウィキアに問うた。

なあ、ウィキア何でなんだろうな。悲しくもなんともないのにさっきから、涙が止まらないんだ

そうね

ウィキアとShalは、そっと親友の身体を抱きしめ、祈った。

願わくば彼にほんの僅かでも、安らぎが訪れますように。

最終話地を這う者の意地を見せ付けましょう-3

デュラハンが消え去り、押し寄せる天使達の軍勢に三人の娘も撤退し、Olの迷宮はついに第三階層まで攻略された。

重く硬い扉を叩き壊し、第三階層となだれ込む天使達の目の前に、小さな少女が姿を現す。クドゥクの盗賊、Faroだ。

貴様も魔王の手先か

ろくに武器も持たず、たった一人で迷宮に佇む少女に天使は剣をつきつけた。しかし彼女は答えず、まるでからかうようにくすくすと笑みを浮かべるのみ。

貴様、我らを馬鹿に

タン、と音を立てて、Faroに掴みかかろうとした天使が地面に倒れ付した。彼の身体はまるでチーズの様に無数の穴が空き、光となって消える。

敵だ!

一瞬にして天使達は殺気立ち、武器を構えた。クドゥクの少女が敵だという事はハッキリした。が、どうやって天使を殺したのかは全くわからない。

魔術で不可視の矢を放ったのなら、傷は前面に出来るはずだ。しかし、穴だらけにされた天使は左側面に穴が空いていた。しかし、そちらには壁しかない。攻撃など不可能なはずだ。

貴様、よくも!

槍を構えた能天使がFaroに向かって突進する。

馬鹿、迂闊に

他の天使たちが止める間もなく、突き出した能天使の腕がころりと落ちた。

なああぁぁぁぁぁっ!?

天使といえど下界に顕現していれば、その身には神経も通っているし、痛みもある。能天使は肘の先から失われた腕を胸にかかえる様にして叫び声を上げた。次の瞬間、彼の首はスパンと切り落とされ、地面を転がる。

罠だ

その様子を見ていた主天使はようやく、攻撃の正体に気付いた。

この通路一帯に無数の罠が張り巡らされている。アイツはそれを自由に起動できるんだ

よく目を凝らせば、通路のそこかしこにスイッチと思しきものが見えた。最初の天使が死んだ場所も、集中すればうっすらと魔力による力線が見て取れる。それをうっかり越えると、壁から無数の弾丸が射出される仕組みだ。

防備を固めろ! 目を凝らせ! 奴を一刻も早く殺すのだ!

巨大な盾を構えた天使が先行し、壁から射出される弾丸を防ぐ。二番目の天使が切り刻まれた、天井から高速で降ってくる刃は剣を掲げ押し止める。その横を潜り抜け、剣を振るおうとする天使に対してFaroはとん、と壁を叩いた。

途端、上下左右四方向から無数の矢が飛び、天使はハリネズミの様になって死んだ。左側の矢は盾で防げたが、その他の方向は無理だったのだ。

固まれ! 互いに守りあいながら進むのだ!

軽快にダンジョンの通路を進むFaroの後を、天使達は一団となって進む。

Faroは僅かに出っ張った床のスイッチを踏むと、すぐに現れた目の前の落とし穴に身を投じた。逃げ切れぬと悟って自殺したか? と目を見張る天使達の耳に、何か巨大な物が動くような不吉な音が聞こえてきた。

逃げろ!

果たして、前方から物凄いスピードで転がってきたのは通路一杯に広がる巨大な鉄球だった。鉄球はFaroの入った小さな穴の上をそのまま転がりぬけると、天使達を跳ね飛ばしながら押しつぶした。

逃げ出した天使達の何人かは、先ほど避けた刃や弾丸、矢の罠に再度引っかかって命を落とす。鉄球は十数人の天使の命を奪って、ようやくその動きを止めた。

ふざけおって!

動きの止まった鉄球を粉々に砕き、主天使が激怒した。

その首、叩き落してくれる!

怒りに任せ、主天使は全身を理力で包み込み、Faroに向かって突っ込む。多少の被弾は覚悟の上だ。全身に巡らせた防御の術と速度で、多少のダメージは何とかなる。あっという間にFaroに肉薄し、目を血走らせて剣を振り上げる主天使に対して、Faroはかかとでこんこんとスイッチを押した。

瞬間、地面の一部がバネで弾かれ斜めに持ち上がり、主天使の身体を後ろに跳ね飛ばす。跳ね飛ばされた先で壁が柱の様に飛び出し、主天使の身体を押しつぶす。柱に潰され固定された彼の頭に、その中にたっぷりと濃硫酸の入った壷がすっぽりと被せられた。

!! !! !!!!!

声にならない声をあげ、壷を外そうと引っ張りながら主天使はヨロヨロと通路を歩く。その足が、床から少し上の位置に張られた縄を引っ掛けて、高速回転する丸のこが彼の首を切り飛ばした。

余りの凄惨さに言葉を失う天使達を置いて、Faroはさらに迷宮の奥深くへと向かう。

そこまでだ

その行く手を、天使達が阻んだ。

後ろを振り向くFaroの視界に、追いついてくる天使達の姿。彼女は前後を完全に挟まれていた。回り道し、挟み撃ちされたのだ。

慌てて横道に逃げ込む彼女を追いかけながら、天使達はニヤリと笑った。そちらの道は行き止まりで、罠もないことを既に確認していたからだ。

その道の奥、袋小路の大部屋で少女は観念したように天使たちに向き直った。万一にも逃げられぬよう出口を固め、天使達は剣に槍、弓を構え少女ににじり寄る。

オン

そこで、Faroは初めて口を開き、そう言った。その言葉自体には大して意味はない。

ただの、召喚呪文の一節完成間近で止めていた呪文の、最後の一節だ。彼女自身は殆ど魔力を持っていないが、魔力も瘴気もこのダンジョンの中にならどこにでも豊富にある。呼ぶだけなら彼女でも丸暗記した呪文で十分に可能だった。

な!!

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